コールセンターのナレッジマネジメント「はじめの一歩」

1.コールセンターにおけるナレッジ、どうしていますか

弊社ではコールセンターのコンサルティングや研修に携わる際、まずはそのセンターを理解するところから始まります。

把握すべき事項はスクリプトやFAQ、研修テキスト、その他の様々な資料など、センターのなかで活用されている各種の「情報」です。

それらの情報はスムーズに確認できることもあれば、数ヶ月かかっても実態が把握しきれないセンターもあるでしょう。

後者の場合は、センターの中にある情報がナレッジ(ナレッジ:個人が持つ知識・経験・事例・ノウハウ・スキルなどを集めて体系化した、組織にとって有益な情報のことを指す)としては認識されておらず、また管理をされていないケースがほとんどです。

コールセンター業界ではナレッジマネジメントという方法論が注目され、導入されるようになって久しいです。

ナレッジマネジメントの効果は、コールセンター運営において最も重視される効率面に貢献し、コミュニケーターが確かな情報を閲覧しながらお客さまに説明をするため、担当者毎の対応のばらつきと誤った対応を回避することができます。

加えて、近年人材の入れ替わりが発生しているので、短期に人が育成できるなど、ナレッジの活用メリットは多岐にわたることがあります。

最近の若年層を中心した情報収集は、企業に問い合わせをする前にWEBで困ったことを検索して解決策を見出し、かつ電話以外のチャットやLINEにコンタクトをするなどしており、その行動も多様化しています。

そのため、企業もお客さまがスムーズ、また自己解決できるようような、幅広い対応を迫られています。

もしコールセンターの中に、お客さまからの質問(Question)と回答(Anser)が的確に存在すれば、それをホームページやチャットボットなどと連携することで、お客さまの自己解決率も高まっています。

2.二極化するコールセンター・ナレッジ

ナレッジマネジメントというと、検索エンジンを積んだ専用のシステムを導入するイメージが強いですが、筆者はそれだけではないと考えています。

必要に応じてシステム導入という道筋があるだけで、その前提となるのは、お客さま応対に必要な情報を体系化して、オペレーションに活かしていくことではないでしょうか。

現在、多くのコールセンターでは情報はどのように扱われていますか。

読者のなかには、「うちはちゃんとやっているよ」というご担当者様もおられると思いますが、その一方で「わかってはいるけど、なかなか・・・」とお感じの方も多いのではないでしょうか。

この点において、センターによってその差が大きく、二極化しているように私たちは感じています。

そのため、情報管理やナレッジにおいて課題を抱えているコールセンターの現状やその原因について、まとめました。

<コールセンターのナレッジに関する現状課題や原因>

1)FAQシステムやCRMシステムなどが存在するものの、あまり活用されていない

2)ナレッジの重要性は理解しているが、それらに対する体制づくりや人材確保、システムなどの投資が足りていない

3)オペレーション現場では、SVが日々の質問対応やエスカレーションの軽減を目的に、各自で資料を作っているものの、現業務を抱えての作業は負担が大きい 

4)3)で資料を作成してもそれに対する研修などが行えず、せっかくの資料も活かしきれていない 

5)資料作成時の記述ルールがなく、担当者によって使用するソフトや形式もばらばらなため統一性に欠け、わかりづらいものも多い

6)日付や作成者の情報がない、情報の断捨離をするプロセスがないため、古い情報がどんどんと蓄積され、その結果、よい情報も埋もれてしまっている

7)情報管理する人が不在なため、センター内にどのような資料が存在するのかを誰も把握しきれていない等々

コールセンターで、日々のお客さま応対に集中していれば、自ずとこのようになってしまうこともあり、決して珍しくないことです。

3.まずはコールセンターの現状把握から

私たちが第三者として客観的に、企業様のコールセンター・ナレッジについて調べてみると、その各種のナレッジは必要に応じて作られただけあって良質な情報も豊富で、まさに宝の山という印象です。

ただ、作成目的が曖昧、検索性という視点がないもの、単純に文字が小さいなどとちょっとしたことが課題となって使われていないこともあります。

「ナレッジをマネジメントする」ということは、一体、どこから手を付ければいいのでしょうか。

最初のプロセスがクリアになっていないため、具体的な改善に着手できないケースもあり、ここからは初動にフォーカスして整理をしていきたいと思います。

まず、最初の活動はセンター内に存在する、資料の棚卸しから実施しましょう。

もし、資料が多岐にわたり、量が多い場合はデータで確認するのは限界があるため、一旦すべて印刷をするのも、1つの方法です。

ペーパーレス時代に逆行しているので、いささか抵抗もありますが、2in1印刷などでもよいので物理的に見える化をするのがよいでしょう。

その後、会議室の机に並べて、ナレッジとして今後活用すべきか否かで仕分けをします。

仕分けの一例をご紹介しますが、こちらは「ナレッジとしての重要性」と「修正作業の負

担レベル」の2つの視点で行った場合のものです。

            <図1>

<仕分け分類B>
ナレッジとしては重要だが、修正作業を必要とする

<仕分け分類A>
ナレッジとしては重要で、かつそのまま活用できる

<仕分け分類C>
ナレッジとしてはあまり重要でないが、そのまま活用できる

<仕分け分類D>
ナレッジとしてあまり重要ではなく、また修正作業を必要とする。そのため廃棄も検討。(いきなり廃棄の判断は難しいため、「廃棄フォルダー」に一旦格納でもよい)

図解では、わかりやすく四象限で分類しましたが、AからDまでそれぞれA1〜A3などと細かく分けておいたほうが作業しやすいでしょう。

その際、図1の分類コードを記載すると共に、その右側に修正に必要とされる時間を記入します。また、加えて、どのような修正が必要なのかのメモも書いておくとよいでしょう。

              <図2>

4.コールセンターナレッジのユーザビリティの視点

情報の棚卸しをした後は、優先順位の高いものから修正を行います。その際、重要となるのがユーザビリティです。

国内規格JISでは「ユーザビリティとは、特定のユーザが特定の利用状況において、システム、製品又はサービスを利用する際に、効果、効率及び満足を伴って特定の目標を達成する度合い。」と定義されています。

ナレッジのメインユーザーは、お客さま対応の第一線を務めるコミュニケーターやスーパーバイザーです。

ひとつひとつの情報を、彼らが使いたくなり、使って効率と質があがり、さらに使いこんで満足度が高いコンテンツへ加工していく必要があります。

資料作成の際は、得てして作り手が考える「知っておいてほしいこと」を並べがちですが、そうではなく、いかにコールの現場で使えるものにするのか。

また、その情報を聞いたお客さまが満足や安心できるかが重要です。

具体的な情報の修正の仕方については、また別のコラムで述べることとしたいと思います。

5.コールセンターにおけるプロジェクト化が不可欠

ここまでお読みいただいて、初動だけでもかなり手間がかかることをイメージされると思うことでしょう。

しかし、ナレッジをしっかりと活用するには、やはりそれなりの時間と労力が必要になります。

でも、一度しっかりと土台を固めておければ、その後も効率的かつ質の高い案内が可能となります。

そうしたベースがあればブラッシュアップが可能なため、さらに進化させて、センターを下支えする仕組みになることでしょう。

これらの業務を日々のオペレーションと併行して進めるには、センター内でプロジェクト化をして管理する必要があります。

プロジェクトマネジメントの視点で、ゴールを定め、体制を整えて、プロセス化をして、実行計画に基づいて進捗管理をしていきます。

冒頭で、FAQシステムが存在はするものの、あまり活用されていないケースがあるとお伝えしました。

そのような仕組みがすでにある場合は、それら情報を管理・活用するため、なぜ活用されていないのかを課題分析し、その後の改善方法も整理していく必要があります。

弊社では、センター全体で一度にプロジェクトをスタートさせるのではなく、まずはひとつの商品群もしくは商品から着手し、そこで手順や実施上のノウハウを獲得し、その後に他の商品に水平展開させていくスモールスタートをおすすめしています。

情報を整理していくと、対象となる範囲や具体的な記載ルールで迷う場面も多く、実際には手を動かしてみると、その得られる知見が多いことに気づくはずです。

6.効果検証の仕組み

コールセンターにおけるナレッジに多くの時間やマンパワーの投資をする以上、その効果を獲得する必要があります。

そのため、プロジェクト化する際に、効果検証の仕組みも検討しておきたいものです。

ただし、AHT(1件の問合せを処理するのにかかる平均時間)などに数字が反映されてくるのはかなり時間がかかります。AHTなどにはその他の要素も大きく関わってくるため、もっと手前の効果をみる仕組みも有効でしょう。

最も手軽なところでいえば、メインユーザーであるコミュニケーターやSVにビフォーアフターでアンケートを取るのもひとつの方法です。

7.お客さま満足のために

コールセンターの運営側にいると、「お客さまのために」と言いつつも、管理する視点が強くなりがちですが、最終的にコールセンターにコンタクトをし、話を聞いてくださったお客さまがどうしたら満足や安心を得られるのかを念頭におきながら、一歩ずつ進化をしていく必要があります。

いかがでしたでしょうか。

もし現在、コールセンターのナレッジに課題があると感じていることがあれば、まずはひとつの商品からでもいいので、現状の課題把握をしてみるのがよいでしょう。

コールセンターは明日も明後日も止まることなくお客さま窓口として機能をします。

そこには多くのお客さまが訪れ、多くのコミュニケーターがそれらに対応します。

その活動を下支えする基盤の構築は、一朝一夕では完結しない大変な仕事ではありますが、非常に意義深いものとして捉えていくべきであろうと当社では考えています。

参考になりましたか。

コールセンター・チーフコンサルタント 石橋由佳

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