病院での電話応対におけるクレームの正体とは

1.怒るつもりはなかったのに・・・

みなさんは、どこかの企業の方と電話で話をしたときに怒った記憶がありますか?

つい先日、普段は穏やかなスタッフが「人間ドックを受けた病院に電話したら、話が通じなくて、ついクレーマーになっちゃった・・・」と話し、どこか戸惑っている様子でした。

私たちもそうですが、そのスタッフも普段はコールセンターの品質管理の仕事をしているため、コミュニケーターの大変さや苦労をよく理解しており、なるべく厳しい言い方にならないようにと意識をしているようです。

しかし、そのやりとりは、診断結果に関することで、思ったような回答が得られなかった内容とのこと。

それで内容を聞くと、こちらの真意を理解していないためか、あるいは理解はしているけれど、あくまでも社内のルールを遵守するためなのか、通り一遍の対応で、誠意が感じられなかったそうです。

健康に関することだけに、そのやり取りは曖昧にすることができず、その病院とはこれからも引き続き話をする必要があるそうで、気が重いと話していました。

2.クレームと言わない企業

「クレーム」や「クレーマー」と聞くと、みなさんはどういった印象を持ちますか?

最近では、企業と顧客とのトラブルに関するニュースを耳にする機会が増え、「切れる顧客」「モンスター化」という少々きつい表現で語られています。

また、Wikipediaには、「カスタマーハラスメント」という用語まで登場し、『日本では2010年代前半頃から悪質クレーマーに対して和製英語の「カスタマーハラスメント(略称カスハラ)」の名称を用いる動きが見られるようになった。』とも記されています。

このように、「クレーム」や「クレーマー」というと、企業に嘘や理不尽な要求をする人たちや、その事象を想像しがちですが、本来はそうではありません。

その企業や商品に対するお客さまの期待値が損なわれた場合に、お客さまが意見や要望として申告をしてきたものです。企業にとっては非常に貴重な意見であり、しっかりと向き合うべきものです。

書店に行くと、クレーム対応の専門書が複数冊おかれていることが多いのですが、中でも「クレームは企業の宝」といった趣旨のことが書かれている書籍は少なくはありません。

もちろん、クレームは少ない方が望ましいですが、より高い顧客満足を追求する企業にとっては、「言ってもらわないとわからない(知ることができない)」ことも多く、いただいたご意見は貴重な財産なのです。

当社のクライアント様の多くは、数年前から「クレーム」という言葉を社内では使わないようにし、その代わりに「ご指摘」と表現しています。

「クレーマー」は「ご指摘をお申し出いただいたお客さま」となりますが、呼び方だけで、だいぶ印象が違ってきます。

そのため、理不尽な要求でも全て承りましょう、ということではありません。対応すべき案件とそうでないものとをしっかりと区別し、ありがたいご指摘には真摯に向き合い、感謝を伝えながら、改善策を尽くすお約束をするのです。

3.ご指摘の要因を整理する

話を戻しましょう。冒頭のスタッフと病院とのやりとりを分析してみると、いくつかの要因が考えられます。

ここでは、当社boosterの「電話応対に不可欠な4つの要素」に沿って、整理をしたいと思います。

『トーク』とは、会話の内容を指していますが、今回はこの点に大きな問題があったようです。

健康診断の結果が端的すぎて、深刻な状態なのかどうかがわからなかったため、その項目のもう少し詳しい内容を確認すると、会話の前半ではお茶を濁して終わりにさせたかったのか、

「◯◯かと思いますが〜」「(会社の指定病院だったため)御社の担当の方がご存じだと思います」などと曖昧に答える場面が長く続いたそうです。

さらに会話を続けていくと、今度は理由も添えずに「説明はいたしかねます」「決まりですから」「ご説明は有料でしたら承れますが、よろしいでしょうか」いうのみで拉致があかなかったそうです。

郵送で送られてくる診断結果の説明が有料とは知らなかった人は他にもいるようで、インターネットでその病院を検索し、Googleの口コミを見てみると、同じことを強く訴えている人が何人かいました。

できることであれば、事前に丁寧に説明をしておくか、サービス自体を見直すのが良いのでしょう。

しかし、どの企業もビジネスである以上、できること、できないことがあるのは致し方ないことだとすると、せめて説明の際には、「なぜできないのか」、そのことが知らなかったお客さまへの配慮や気遣いの言葉かけは必要でしょう。

さらに、「どうしたらできるか」を丁寧に説明するスクリプトがあれば、もう少し違った展開になったと想像します。

ある意味では、電話の担当者任せにしている組織に問題があり、もしこの問い合わせが高い頻度で発生しているならば、担当者に同情すら覚えてしまいます。

次に『スキル』を見てみましょう。スキルとは、電話応対の技術で、一般的なオープニングから始まり、笑顔やスピード、復唱や抑揚などを指しています。

この担当者の応対の印象は、冷たく杓子定規に感じたそうです。また、傾聴や共感を一切示すことがなかったため、「申し訳ございません」と言われても気持ちが伝わらず、さらに怒りがエスカレートしてしまったそうです。

せめて、できないことへの心苦しい心情や、お客さまへの寄り添いがあれば、大人の対応で折り合いをつけることもできたかもしれません。

その下にある『マインド』は、お客さまに対する思いやお役に立つ姿勢、企業貢献する心構えをみるものですが、今回の応対はその部分でも不足していたようです。

そもそも、病院やクリニックは病気に対する理解がどこよりも深いため、その分、『健康やいつまでも元気でいたい』というお客さまのサポート役でいて欲しいのは、誰もが思うことでしょう。

健康診断の結果が気になっているお客さまの心情を汲み取って、寄り添うのがあるべき姿なのではないかと思いますが、その気持ちが全く感じられず、単に企業の代弁者として話す姿勢が、病院へ行く方の怒りをさらに助長したに間違いありません。

最後に、会話のベースとなる『知識』については、このやり取りでは特に専門的な説明が必要ではなかったため、今回の整理の対象からは一旦外します。

4.改善の方向性としては

このように、分解をしていくと、それぞれ対処すべきことが見えてきます。
『トーク』については、スクリプトを整備し、お客さまに納得していただける説明を標準化する必要があります。

次に『スキル』については、感じのよい話し方に必要な技術の練習をしたり、スクリプトをロールプレイング練習で使いこなせるようにしたりと、現在では安価に電話の録音設備が購入できるため、普段の電話応対を録音して、振り返る機会を作ってみるなど、教育的な取り組みが奏功しています。

最後に『マインド』については、組織のトップがお客さま応対のあり方をメッセージとして打ち出し、日々、折に触れて伝えていくことが必要です。

風通しが悪い組織の場合は、それが原因で担当者のモチベーション低下を招き、その気持ちがお客さま応対に出てしまうこともあります。マインドの醸成は気を抜かず、丁寧に、長い目で暖かく育むことが重要です。

4.最後に

いかがでしたでしょうか。1本の組織とお客さまとのやり取りにも、実に色々と気づくことが多いものです。一方で、どの策をとっても、一朝一夕で対処できるものではありません。指摘の数をカウントして良し悪しを語るだけではなく、まずはご指摘の発生原因を分析し、計画的に改善へ取り組むことがよいのだと考えます。

参考になりましたか。

コールセンター・チーフコンサルタント 石橋由佳

サービスのご紹介

「感じのよい応対」を目標として、学習効率の高いカリキュラム。「わかる」を「できる」に変えるため、オリジナルのテキストやロールプレイングを取り入れた実践型の研修です。

クレームに直面したときに落ち着いて対応するためのオリジナルのサポートツールを用いた研修です。クレームの傾向をヒアリングしたうえで対応方法を検討し、研修内容をご提案します。