コールセンター指導は、「コーチング」か、「ティーチング」か?

1.膨大な時間を要するコールセンターのモニタリング+フィードバック

多くのコールセンターでは、品質管理や応対の質の向上を目的として、定期的にモニタリング評価とフィードバック(コミュニケーターへの指導)を行なっています。モニタリングはコールセンター運営において必須とも言える業務ですが、とにかくパワーがかかる点が痛いところです。

一人のコミュニケーターにかかる時間をざっと計算すると、以下のようになります。

【一人のコミュニケーターにかかるモニタリング+フィードバックの時間】
① モニタリング対象音声の選定(1本):10〜20分間
② モニタリング評価(1本):20〜30分間
③ フィードバックの日程調整:5分間
④ フィードバックの事前準備:5〜10分間
⑤ コミュニケーターへのフィードバック:30〜40分間
⑥ フィードバック結果の記録:5〜10分間
 <合計>    75分〜115分間

モニタリングは一人あたり75分〜115分間と時間がかかるので、10人いればその10倍、100人いれば100倍という具合に、人数に比例して必要時間は積み上がります。こうして計算をしてみる機会はあまりないので、実際にモニタリングやフィードバックに携わっている担当の方もこの数字には驚かれるかもしれません。

また、残念ながら、業務の性質上、モニタリングやフィードバックは効率化がなかなか図りづらいのも特徴です。

そのため、コールセンターによっては、品質向上は目指しているものの、マンパワーがかかる、応答率が下がってしまうなどの理由で、モニタリング+フィードバックの実施頻度が限られてしまうことも珍しくありません。

理想を言えば、四半期に一回程度は、コミュニケーター自身が客観的に自らの応対を振り返るのが望ましいのですが、現実的には上期と下期で1回ずつ、時にはやむを得ずに年1回というコールセンターもあります。

2.実施する以上は成果をあげたい

このように、多くの時間とパワーを必要とするモニタリング+フィードバックですが、そうなると、やはり気になるのがその具体的な効果です。

せっかく実施する以上、コミュニケーターにとっても、センターの品質担当者にとっても、労力に見合う成果=品質アップにつなげたいものです。

モニタリングの評価結果をコミュニケーターと共有する時間を、弊社では「フィードバック」と呼んでいますが、コールセンターによっては「コーチング」と称しているところも多くあります。

先日、ある通販健康食品のコールセンターさまと「管理者研修」の打ち合わせをしていた際に、担当の方から、「今度、お願いする「管理者向け研修」では、ぜひ質の高いフィードバックができるように指導して欲しい」という要望がありました。

そのご担当者さまは、本来は「コーチング」をする必要があるのに、現場を見ているとどうも「ティーチング」になっていることが課題だと考えていたようです。

それに対して、弊社からは「コーチング」と「ティーチング」という視点でみると、私たちが実施しているのは「ティーチング」に近いかもしれないとお話しました。

なぜなら、「コーチング」の原理原則が「答えは相手にある」とすると、品質向上への適切な答えを持っているコミュニケーターは少数派だからです。どのコミュニケーターもお客さま応対に一生懸命に励んでいる中で、客観的に自らの強みや弱点を把握するのは難しいのだと思います。

そのため、各コミュニケーターの「どこ」に着目して、「どのように」引き上げていくのかについては、ある程度こちらがイニシアチブを持っておくようにしています。

ただ、コミュニケーターの行動に働きかけるには、納得感が非常に重要なため、「コーチング」の質問型コミュニケーションや傾聴・共感の技術をフル活用して対応するように努めています。

このようにお話した結果、管理者が改善テーマを設定することは重要である、という点で意見が一致しました。そのうえで、このコールセンターでは、改善テーマをどちらも握りきれていないことが課題なのではないか、という結論に至りました。

重要なのは改善テーマであって、「コーチング」も「ティーチング」も育成の手法に過ぎないということです。

3.改善テーマの設定に力を注ぐ

改善テーマはモニタリング・フィードバックの成否を決定すると言っても過言ではありません。

せっかく多くの時間をかけて、コミュニケーターを成長させたいとフィードバックを実施しても、テーマ設定が適切でなければ効果が半減してしまいます。

よく見受けるのが、マナーやルールに偏ったフィードバックです。その指導に至る背景としては、コミュニケーターの成長ステップについて、以下の考え方が根底にあるのかもしれません。

【誤ったコミュニケーター成長ステップ(=指導ポイント)】
ステップ1:スクリプトをベースにした会話やマナーやルールができるようになる
ステップ2:「感じのよい応対」ができるようになる
ステップ3:質問型コミュニケーション、傾聴や共感ができるようになる

この場合、ステップ1に不足があるコミュニケーターは、例えば「終話前の「不明点の確認」ができていなかったよね。では、ここを次にむけての改善テーマに設定しましょう」という指導を受けます。これは本当によくあるケースです。

ところが、お客さまはコールセンターのルールを知りませんし、たとえ「不明点の確認」がなかったとしても、特に残念な気持ちになることはありません。つまり、この改善テーマには、お客さま満足という観点が欠けているのです。

私たちが何よりも重要だと考えるのは、「感じのよさ」です。お客さまは会話の冒頭で「あら、感じがいいわね(^o^) 」 もしくは 「悪いわね(-_-)」と即座に判断します。会話の早い段階で、感じの悪さを印象づけてしまうと、その後の会話がスムーズにいかなくなりますし、その逆もしかりです。

改善テーマは、「自分が気になったこと(指導できること)」や「ルールができていない部分」ではなく、「お客さまに満足いただくために影響があること」という視点で定めるのがよいと考えます。

4.まずは現在のフィードバックを観察してみる

いかがでしたか。

冒頭からモニタリング+フィードバックにはいくつかの作業プロセスがあり、合計すると多くの時間(=パワー)を必要とすることを述べました。そのプロセスのなかで最も重要なのは、最適な改善テーマの設定であり、その見極めこそが重要であると考えます。

コールセンターでルーティングワークとして行われているモニタリング+フィードバックをいま一度見直してみるのもよいのではないでしょうか。

今後のコールセンターの品質向上、コミュニケーターへの質高い指導のお役にたてれば幸いです。

コールセンターコンサルタント 石橋由佳

サービスのご紹介

モニタリング・フィードバック業務をアウトソースしていただけます。応対品質の向上に向けて、丁寧かつきめ細かくご支援いたします。

コールセンターに求められていることは何か?に着目し、センターの「あるべき姿」に向けて、応対品質の改善をお手伝いします。